古川日出男 「ベルカ、吠えないのか?」いきなり脱線してマンガの話になりますが、「マスターキートン」の話のひとつに軍用犬を題材にしたものがありました。その話を読んだとき、兵器として訓練された犬に人間が太刀打ちするのは不可能と知り、戦慄を覚えたものです。 そしてこの「ベルカ、吠えないのか?」で再び戦慄、加えて確信しました。 やっぱり、犬は最強なのだと。 第二次世界大戦中の1943年、アリューシャン列島キスカ島に日本軍が置き去りにした四頭の軍用犬から第一の物語は始まります。四頭から派生した純血種、混血種の子孫たちがその後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争等を経て、冷戦終結までどのように生きたのかという視点を軸に、20世紀における戦争の歴史と犬たちの壮大な血統の歴史が語られていきます。 第二の物語は大主教と呼ばれる老人とヤクザの嬢の物語。 この交互に語られる二つの物語が最後繋がります。 擬人化していない動物としての犬。思惑と打算に満ちた人間に翻弄されながらも賢く頑健に生き抜くリアルな犬の話にこれだけページを割き、読ませる筆力は見事です。ただ犬の話がやや長く後半は少々飽きました。 逆に大主教とヤクザの嬢の話が面白かったので、こちらをもう少し膨らませたほうが娯楽小説としての完成度は上がったのではないかと思います。ただ、古川氏の書きたい物とは違ってしまうのかもしれませんが。 ‘である調’の短い文章を多用することで一定のリズムを刻み、力強く説得力のある文体が印象的でしたが、やや読みづらい箇所もありました。それが本書だけの特徴なのか、古川氏の作品全般に言える事なのかは他の作品を読んでみない事には判断できませんね。ということで次は何を読みましょうか。
by waraneko
| 2006-01-24 21:45
| 本
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